地質学と土壌学の再接続
― 長期的な土壌健全性の維持を目指して―
・土壌生成を“地質スケール”から再解釈する
・鉱物レベルで土壌機能の起源を解明する
・持続可能農業と炭素貯留へ応用する
私たちの研究室では、「地質学と土壌学の再接続」を大きなテーマとし、岩石・鉱物が時間をかけて風化し、土壌として農業や生態系を支えるまでの長期プロセスを科学的に解き明かしています。近年の土壌科学は、農学・環境学の枠組みの中で代謝回転の速い炭素・微生物動態の研究が発展する一方、母材となる岩石や地質環境との結びつきが弱まりつつあります。その結果、土壌の“現在の姿”の理解は深まってきたものの、土壌がどのように形成され、どの鉱物がどの機能を担い、そこにどのような地質史が反映されているのかといった“長期的視点”が軽視されがちです。しかし、持続可能な農業や炭素貯留、生態系保全を考えるうえでは、「土壌がどこから来て、どんな変遷を経て、これからどこへ向かうのか」というタイムスケールの長い理解が不可欠です。
そのため私たちは、地質学(過去 ~ 数十万年以上の物質循環)と土壌学(現在 ~ 数百年スケールの環境・農業問題)
を改めて“つなぎ直す”ことで、土壌機能を根源から捉え直し、未来の土壌健全性の維持に貢献しようとしています。
この大目標のもと、以下の4つの核となる研究を推進しています。
(1) 風化雲母の多機能性の解明と資源利用
雲母は土壌圏での風化に伴って構造が変化し、必須栄養素カリウムの貯留や放射性セシウムの選択吸着など、多様な機能を発揮します。本研究では、ナノスケールでの構造変化の解析や選択吸着メカニズムの解明を通じて、肥料資源としての利活用や環境浄化への応用可能性を探っています。

図 風化雲母の局所構造に関するイメージ図(中尾作成)
(2) 黄砂による土壌細粒成分の供給効果の歴史的意義
アジア内陸の砂漠から飛来する黄砂は、長い時間をかけて各地の土壌に細粒物質やミネラルを供給してきました。
この研究では、氷期に降下した黄砂が我が国の土壌形成や肥沃度に及ぼした歴史的影響を復元し、土壌の希少資源性を可視化することを目指しています。

図 黄砂(風成塵)が大陸から日本へ輸送されるイメージ図(2017修士卒 寺島真維氏作成)
(3) 蛇紋岩土壌の発達と作物品質への影響
蛇紋岩地帯で形成される土壌は、マグネシウムなどの栄養素(ミネラル)が豊富といった特徴を持ちます。
私たちは、蛇紋岩土壌からイネに吸収されるミネラルがコメの品質や収量に及ぼす影響を明らかにし、地域固有の農業資源の価値(テロワール)を科学的に証明します。

図 土壌中の必須栄養素(ミネラル)がイネに経根吸収されるイメージ図(2022修士卒 原田和花氏作成)
(4) 岩石風化促進による炭素貯留とコベネフィットの開拓
近年注目される“Enhanced Rock Weathering(岩石風化促進)”は、岩石の風化反応を加速させ、CO₂を地球化学的に除去するアプローチです。
本研究では、玄武岩粉末の施用による炭素固定量の定量技術の開発に加え、土壌pH改善や作物生産性向上などのコベネフィットを評価し、持続可能な農業との融合を目指しています。

